
2月4日(ロサンゼルス現地時間)全米映画俳優組合賞(Screen Actors Guild Awards)のノミネートが発表されました。
オスカー前哨戦としてのゴールデングローブ賞との違い
アカデミー賞を占う上での前哨戦としてはゴールデングローブ賞がよく知られていますが、全米映画俳優組合賞もそれに劣らず注目するべき映画賞です。その理由として、選考委員の違いが大きく関係しています。
ゴールデングローブ賞がハリウッド在住の外国人記者からなる "The Hollywood Foreign Press Association" のメンバーによって選出されるのに対し、アカデミー賞は映画製作に携わるスタッフ、俳優からなるアカデミー会員によって選出されます。
全米映画俳優組合賞は、映画、テレビ、ラジオに携わる俳優を中心としたSAG-AFTRAの組合員によって選ばれます。組合員には俳優の他、ラジオパーソナリティや歌手なども含まれますが、ゴールデングローブ賞と比べるとよりアカデミー賞に近い選者によって選ばれる映画賞といえます。
通称SAG Awardsとも呼ばれる全米映画俳優組合賞には、ゴールデングローブ賞と同様にテレビと映画、ドラマとコメディといったカテゴリ分けがされています。今回は映画部門に絞って本賞とアカデミー賞の主要部門を占いたいと思います。
なお、全米映画俳優組合賞には作品賞が存在しない代わりに「キャスト賞」(Outstanding Performance by a Cast in a Motion Picture)が設けられています。これは作品に対しての賞というより、作品に出演した俳優全員に対する賞という意味合いがあり、全米映画俳優組合賞の特徴的な点です。また、監督賞が存在しないのにスタントマン、スタント・コーディネーターに特化した「スタント・アンサンブル賞」が設けられている点も俳優組合らしい賞といえるでしょう。
コロナ禍で躍進するネット配信作品
今回はコロナ禍の影響もあってか、ネット配信作品の躍進が目立ちます。Amazonプライムビデオ、NETFLIX、Disney+、HBO maxといったメジャーなネット配信プラットフォームで公開された作品がずらりと並んだ印象です。アカデミー賞も今年は特例として、劇場公開されていないネット配信作品でもノミネート対象とする方針を打ち出していることから、アカデミー賞でもネット配信作品のノミネートが増えるものと予想されます。
作品としては「Mank マンク」「ミナリ」「ノマドランド」「シカゴ7裁判」あたりが有力ですが、昨年「パラサイト 半地下の家族」が大躍進したことから、今年アジア系作品の「ミナリ」がどれだけ躍進するか注目されます。
チャドウィック・ボーズマンは個人賞でWノミネート
主演女優賞はフランシス・マクドーマンド、ヴィオラ・デイビスの名前が上がっていますが、いずれも既にオスカーを獲得しています。特にフランシス・マクドーマンドは「スリー・ビルボード」で主演女優賞を受賞して間もないので、今回は難しいのではないでしょうか。意外と「(原題)Promising Young Woman」のキャリー・マリガンあたりが受賞するかもしれません。
主演男優賞は「ファーザー」のアンソニー・ホプキンスを有力とする声が多いようです。ホプキンスは「羊たちの沈黙」で既にオスカーを手にしていますが、名優の上に高齢となってきたのでもう一度くらい受賞しても不思議ではありません。「マ・レイニーのブラックボトム」チャドウィック・ボーズマンは「ザ・ファイブ・ブラッズ」で助演男優賞にもノミネートされていて話題となっています。
実はオスカーを一度も手にしていないグレン・クローズ
助演女優賞はグレン・クローズとオリビア・コールマンが有力ですが、オリビア・コールマンは「女王陛下のお気に入り」で主演女優賞を獲ったばかりです。オスカーは二度目、三度目になるとぐっと難易度が上がり、高齢のベテラン俳優でまだオスカーを手にしていない場合は逆にぐっと難易度が下がる傾向があります。
名優のイメージが強いグレン・クローズですが、意外なことにアカデミー賞に7回もノミネートされているにもかかわらず、まだ一度も受賞していません。今回はかなり有力なはずですが、土壇場でThe Mauritanianのジョディ・フォスターも浮上してきそうな状況で混戦となりそうです。
助演男優賞は米有力メディアVarietyの予想に頼るとしましょう。VarietyはWebサイトにアカデミー賞の予想ランキングを掲載しており、状況の変化に応じてランキングも常に変動しています。この記事を執筆している現在、1位がダニエル・カルーヤ(Judas and the Black Messiah)、2位レスリー・オドム・Jr.(あの夜、マイアミで)という予想となっています。
variety.com: 2021 Oscars Predictions
全米映画俳優組合賞の授賞式は毎年1月開催ですが、今年はコロナ禍の影響では4月4日(現地時間)に延期して開催されます。
全米映画俳優組合賞 映画部門受賞リスト
キャスト賞
- 「ザ・ファイブ・ブラッズ」(Netflix)
- 「マ・レイニーのブラックボトム」(Netflix)
- 「ミナリ」(A24)
- 「あの夜、マイアミで」(アマゾンスタジオ)
- 「シカゴ7裁判」(Netflix)
主演女優賞
- エイミー・アダムス(ヒルビリー・エレジー 郷愁の哀歌)
- ヴィオラ・デイビス(マ・レイニーのブラック・ボトム)
- ヴァネッサ・カービー(私というパズル)
- フランシス・マクドーマンド(ノマドランド)
- キャリー・マリガン(原題:Promising Young Woman)
主演男優賞
- リズ・アーメッド(サウンド・オブ・メタル 聞こえるということ)
- チャドウィック・ボーズマン(マ・レイニーのブラック・ボトム)
- アンソニー・ホプキンス(ファーザー)
- ゲイリーオールドマン(Mank マンク)
- スティーブン・ユァン(ミナリ)
助演女優賞
- マリア・バカロワ(続・ボラット 栄光ナル国家だったカザフスタンのためのアメリカ貢ぎ物計画)
- グレン・クローズ(ヒルビリー・エレジー 郷愁の哀歌)
- オリビア・コールマン(ファーザー)
- ユン・ヨジョン(ミナリ)
- ヘレナ・ゼンゲル(この茫漠たる荒野で)
助演男優賞
- チャドウィック・ボーズマン(ザ・ファイブ・ブラッズ)
- サシャ・バロン・コーエン(シカゴ7裁判)
- ダニエル・カルーヤ(原題:Judas and the Black Messiah)
- ジャレッド・レト(原題:The Little Things)
- レスリー・オドム・Jr.(あの夜、マイアミで)
スタント・アンサンブル賞
- 「ザ・ファイブ・ブラッズ」
- 「ムーラン」
- 「この茫漠たる荒野で」
- 「シカゴ7裁判」
- 「ワンダーウーマン1984」
追記
ベテラン勢はゴールデングローブ賞に続き受賞ならず
受賞者が発表となりました。映画部門では主演女優賞、主演男優賞、助演男優賞はアフリカ系アメリカ人、助演女優賞は韓国人という多様性を反映した結果となりました。
ゴールデングローブ賞では、オリヴィア・コールマン、グレン・クローズ、フランシス・マクドーマンド、ゲイリー・オールドマン、アンソニー・ホプキンスといったベテラン勢がすべて賞を逃しましたが、全米映画俳優組合賞でもその結果を踏襲した形となりました。この結果はアカデミー賞を占う上で少なからず大きな判断材料となりそうです。
ノミネート/受賞者リスト:全米映画俳優組合賞公式サイト