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映画の誕生から125年。フィルムからデジタルの時代と思いきや、映画は今後どこへ向かう?

フィルム映写機
Image: Free-Photos fromPixabay

125年続いてきたフィルム文化

リュミエール兄弟が発明したシネマトグラフによって映画興行がはじめて行われてから今日(12月28日)で125年が経ちます。

エジソンはそれより前の1890年にキネトスコープという動画再生機を発明していますが、再生機の覗き窓から鑑賞する方法だったため、一人で観ることしかできませんでした。映写機で動画をスクリーンに投影し大勢の人が一緒観るという、映画の鑑賞方法はリュミエール兄弟のシネマトグラフが原点になっています。
1895年12月28日にフランス、パリにある「グランカフェ」の地下で10本ほどの短編を上映し、33人の観客が1フランの入場料を支払ったと言われています。これが世界で初めての映画興行ということになります。
それから現在まで125年も経ちますが、最近になってやっと映写機がフィルムを使わないデジタル方式になり、リュミエール兄弟の発明も現役を終えたようにも思えます。

フィルムは運ぶのが大変

フィルムの時代には、全国公開するような外国映画を輸入するにしても、公開映画館分のすべてのフィルムを輸入していては数百本ものフィルムを輸送しなければいけなくなるので、インターネガ(原盤用フィルム)のみ輸入し、日本で上映用のポジフィルムに焼き増ししていました。その焼き増ししたフィルムも最初の数本が特に品質が良く、それは有楽町あたりの映画館で使用されたと言われています。当時でいえば、有楽町マリオンのTOHOシネマズ日劇がそれに当たるかと思いますが、残念ながら日劇など800席もあるような巨大劇場はシネコンの普及とともに姿を消してしまいました。
もちろん、焼き増しした数百本分の上映用フィルムは日本全国に輸送する必要がありました。

見られなくなったラストシーンの雨

映画の最盛期であった昭和の時代には映画館の数が非常に多かったためフィルムの数が足らず、上映で回し終わったロール(フィルム)はすぐに他の映画館へ運んで別の映画館で使用するという方法が取られていまし た。これは「ニュー・シネマ・パラダイス」にも出てくるエピソードですね。フィルムが映画館をハシゴしていた時代です。
その時代では、映画の封切り後もフィルムは使い回され、一ヶ月後には二番館、三番館と時期をずらして上映され、最後には名画座で上映されることになります。そのころには、映画のところどころ(特にラストシーン)で「雨」が降るようになります。これはフィルムに付いた傷が雨のように投影されて見える現象で、名画座で上映される映画では珍しいことではありませんでした。
この雨はビデオの世界では「フィルムノイズ」と呼ばれていて、動画編集ソフトを使えば簡単に古い映画風に加工することができるので、テレビの再現VRTなどで目にしたことがあるのではないでしょうか。いまでは、本物のフィルムノイズを映画館で見る機会はほとんどありません。

デジタル修復してもビカビカの照明は当時のまま

そのように、フィルムは輸送、保管、複製にコストが掛かること、物理的に劣化してしまうことが大きなデメリットでした。もっとも深刻なのは原盤であるマスターネガフィルムまで経年劣化してしまうことです。これについては、近年4Kデジタルリマスターという方法で旧作を復元していますが、大きなコストが掛かるため人気のタイトルしか対象となっていません。
4Kデジタルリマスターは、見事なまでに鮮やかで鮮明な映像を復元してくれますが、それだけに現在の撮影技法との違いに気付かされてしまいます。例えばリマスターされた「アラビアのロレンス」は、俳優に過剰にライト当たっていて、野外シーンでもまるでスタジオ撮りのようなライトの当たり方が不自然で気になります。これは、当時のフィルム性能があまり良くなかったため、かなり明るめのライトを四方八方から当ててできるだけ暗い影がでないようにしていたためです。
後年、フィルムの性能が良くなってからはナチュラル・ライティングといわれる、できるだけ自然光で撮影する技法が名カメラマン、ネストール・アルメンドロスによって確立されました。

ジョージ・ルーカスは完全デジタル移行を宣言

ジョージ・ルーカスは「スター・ウォーズ」をリバイバル公開することになった際、マスターフィルムの劣化があまりに激しかったため、大部分をデジタル修復する必要がありました。そのときの経験から、ルーカスは以後のスター・ウォーズ(エピソード2 クローンの攻撃~)はすべてデジタルで撮影し、デジタルで上映すると宣言。デジタル上映出来ない映画館では上映を許可しないとまで言い出しました。しかし、当時はまだフィルム上映がスタンダードであり、デジタル上映に対応した映画館が少なかったため、フィルムでの上映も許可されることになりました。

老舗コダックは一度倒産

現在では、撮影も上映もデジタル方式が主流となっています。その時代背景はアメリカの老舗フィルムメーカー、イーストマン・コダックの倒産で鮮明になりました。アカデミー賞授賞式は2012年にコダックが倒産するまでは、コダックが命名権を持つコダックシアターで開催されていましたが、倒産後は代わってドルビーが命名権を取得したことから、現在までドルビーシアターでの開催となっています。アカデミー賞によって、コダックからドルビーへという時代の流れが世界に認識される出来事となりました。

フィルムが見直され始めた

このように、映画の世界ではフィルムからデジタルへの移行がほぼ完了したかのようにも思えますが、まだフィルムが生き残る余地はありそうです。日本のフジフィルムは2013年に映画用フィルムから撤退しましたが、コダックは再建していまも映画用フィルムを作り続けています。
今では、すっかりヒットメーカーになったクリストファー・ノーラン監督はフィルムにこだわっていて、いまだにフィルムで映画を撮っています。ただし、ノーランが使っているのは65mmフィルムを使用するIMAXのフィルムカメラなのでいささか特殊ケースではあります。IMAXカメラは撮影コストが高額になるものの、画質は半端なく高レベルで解像度についてはデジタル換算で15K相当ともいわれており、現在のデジタル技術ではまだフィルムに遠く及びません。

スター・ウォーズシリーズも「フォースの覚醒」以降に製作された3本はすべてフィルムで撮影されています。この3本はルーカスフィルムがディズニーに買収されてから製作されたものですが、ルーカスの意向とは裏腹にフィルム撮影が復活し、登場するクリーチャーもCGからスーツ(着ぐるみ)を多用するなど方向転換が図られています。

映画は生物につきお早めに

映画のデジタル化は、コンテンツを製作した時点の画質や音質をいつまでも劣化させることなく保存できるメリットがあります。しかし、映画は公開されたそのときに映画館で観るべきものだと感じています。「グラン・ブルー」の冒頭シーンはモノクロで撮影されていますが、あの美しく瑞々しい映像を大スクリーンで観たときの感動はもう二度と味わうことはできません。たとえ4Kデジタルリマスターした映像を劇場の大スクリーンで観る機会があったとしても、はたしてあの鮮明な映像を再現できるでしょうか?

また、映画は公開されたときの時代背景も重要になってきます。「グラン・ブルー」(最初の公開では「グレート・ブルー」)が公開されヒットした時代はまだバブルが崩壊する前であり、人々の考え方も自由でリベラルでした。この映画では、家族のいない主人公が恋人を捨てて青い青い海中に移住し、イルカとの生活を望もうとします。経済が冷え込んだまま、いまだ回復しない日本で人々がこの映画を観たとして、あの公開当時ほどの熱烈な支持を得られるかどうかは大いに疑問です。生活することで精一杯の時代なら、人々は海やイルカではなく家族や恋人を選ぶ主人公の方に共感するのではないでしょうか。

映画は公開された時点から、いろいろな意味で劣化し始めます。たとえ、冷凍保存の様に完璧に保存できたとしても、解凍した時代でその価値観まで復元できるとは限りません。映画はいずれ劣化することを前提に公開したそのときに映画館で見るのがベストなのです。

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