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MGMが身売り?ハリウッドで映画スタジオの吸収合併は定期行事にすぎません

ハリウッド映画スタジオロゴマーク

ウォールストリートジャーナルは12月21日付けの記事で、MGMの親会社であるMGMホールディングスがMGMの売却先を探していると報じました。

既に売却先は決まっている?

MGMの売却話はこれまでいく度も報じられており、今年1月には売却先としてAppleとNETFLIXの名前が挙がっていましたが、けっきょく実現はしませんでした。
しかし、今回は売却先が一切明かされていないものの、既に投資銀行のモルガンスタンレーとライオンツリーLLCが「正式な売却プロセスを開始した "begun a formal sale process"」との報道です。

ハリソン・フォード、メラニー・グリフィス主演の「ワーキング・ガール」を観ているなら、この「正式な売却プロセス」がどういうものか、容易に想像できるのではないでしょうか。米国では大型の企業買収や合併では通常、投資銀行が間に入って実務的な手続きや交渉に当たります。報道内容のとおりであれば、既に売却先は決まっているか最終的な調整段階まで進んでいる可能性が考えられます。

売却先の有力候補は?

気になる売却先については勝手な推察になってしまいますが、コロナ禍の影響でハリウッドが大きくストリーミングサービスに傾倒しつつあることを考えると、ストリーミングサービスを既に持っている企業が有力ではないかと思われます。
そもそもMGMが身売りをしなければならない理由の一つとして、自社でストリーミングサービスを持っていない点が挙げられます。現在、ストリーミングサービスの大手としては、ディズニーのDisney+とHulu、ワーナーメディアのHBO max、AppleのApple TV+、アマゾンのAmazonプライムビデオ、NFTFLIXなどがありますが、自社で映画スタジオを持っていないApple、アマゾン、NETFLIXあたりからすれば、007シリーズを保有するMGMは魅力的に見えるはずです。

ハリウッドの映画スタジオの歴史は吸収合併の歴史といっても過言ではありません。まず、MGMの近年の動きをまとめると次のとおりです。

MGM

MGMはそもそも設立が会社の合併から始まっている。メトロ、ゴールドウィン、メイヤーと合併した3つの映画会社の社名から頭文字をとってMGMと名付けられた。
1973年、MGMは投資家カーク・カーコリアンに買収された。MGMの名でラスべガスにカジノとホテルが建設されたのは、カークコリアンによるものである。
1981年、MGMはユナイテッド・アーチスツの配給部門を買収。
1986年、オーナーのカークコリアンはMGMをTBS(ターナー・ブロードキャスティング・システム)に売却。しかしTBS内部で金融機関との調整がつかなかったことから、買収からわずか74日後にTBSはMGMを再度カークコリアンに売り戻した。
2005年、カーコリアンはソニーが主導するコンソーシアム(投資家グループ)にMGMを再び売却。コンソーシアムはそれに伴いMGMホールディングスを設立。2015年、ソニーは契約終了に伴いコンソーシアムから離脱したが、現在もMGMは投資家グループのコンソーシアムが所有している形だ。

このように、MGMはまるでバスケットボールのごとく所有者同士でパスを繰り返されてきた歴史があります。これは他の映画スタジオも同様で、その時代に力を持った企業が映画コンテンツを欲しがっては買い、バブルが弾けたといっては売りを繰り返しています。
その他の映画スタジオについても、近年の吸収合併の動きをまとめてみました。

ハリウッドメジャーの吸収合併まとめ

ワーナー・ブラザース

1969年、不動産、葬儀サービス業のキニー・サービスはワーナー・ブラザースを買収。その後、キニー・サービスは出版社のTIME社と合併し社名をタイム・ワーナーに変更。
さらにタイム・ワーナーは、2000年インターネットバブルで羽振りが良かったAOL(アメリカオンライン)に買収され社名もAOL・タイム・ワーナーに変更。その後、ITバブルの崩壊とともに衰退したAOLがタイム・ワーナーから離脱。
米大手通信企業AT&Tがタイム・ワーナーを買収、社名はワーナーメディアに変更された。現在、ワーナー・ブラザースはワーナーメディアの子会社であり、AT&Tの孫会社となっている。

20世紀スタジオ(旧20世紀フォックス)

1981年、オーストラリアのメディア王ルパート・マードック率いる新聞社ニューズ・コーポレーションが20世紀フォックスの50%の株を取得して買収。1984年にはさらに50%の株を取得して完全子会社とした。
2017年、ウォルト・ディズニー・カンパニーは計画中のストリーミングサービス(後のDisney+)のコンテンツを充実させることを目的に、20世紀フォックスの買収を開始。その際、傘下にユニバーサル・ピクチャーズを持つコムキャストと買収合戦を繰り広げたが、ディズニーが勝利し2019年に20世紀フォックスの買収を完了した。
元20世紀フォックスの親会社は「21世紀フォックス」の社名で現存していることから、混同しないようディズニーは2020年1月より20世紀フォックスの社名から「フォックス」を除き20世紀スタジオと社名を変更した。

コロンビア・ピクチャーズ

1982年、飲料メーカーのコカ・コーラに買収される。
その後、日本ではバブル期が訪れ日本企業が海外の不動産や企業を買いまくるなか、1989年ソニーはコロンビア・ピクチャーズを買収。日本はアメリカの文化まで買うのか?と米国の一部から反感を買った。
ソニーがハリウッドの映画スタジオを傘下にいれた理由は、ビデオ規格競争「VHS対ベータ」で松下電器を代表とする一派に歴史的な敗北を喫したことがきっかけとされる。ハリウッドを制する者が世界の映像メディア、ひいてはその規格を制するという考え方からであった。

ユニバーサル・ピクチャーズ

1962年、エンタメ界の大御所ルー・ワッサーマン率いるMCAに買収される。その後、1990年に松下電器産業(現パナソニック)がMCAを買収することでユニバーサル・ピクチャーズを傘下に収める。もちろんこれは、前年にライバル企業であるソニーがコロンビア・ピクチャーズを所有したことに対する対抗策であった。
しかし、現在もコロンビア・ピクチャーズを保有するソニーとは対照的に、松下電器産業は1995年バブル崩壊を期にMCAの株80%をカナダの酒造メーカーシーグラムに売却。その後はシーグラムも他社と吸収合併を繰り返し、2009年からは米国のケーブルテレビ大手コムキャストの傘下に収まっている。

パラマウント・ピクチャーズ

1966年、複合企業のガルフ-ウェスタン社に買収された後、1994年総合メディア企業バイアコム(現バイアコムCBS)に買収される。

ハリウッドの王者ディズニー

ビジネスの視点でみると、これがハリウッドの現実でもあります。唯一、ハリウッドメジャーの中で創業から所有者が替わっていないのは、ディズニーです。水商売とも言える映画ビジネスでどこにも買収されないまま、長い歴史を生き抜いて来たことは奇跡的と言えるでしょう。ディズニーは、常に他社を売り買いする立場のまま今日に至っています。

現在はコロナ禍の影響で、特に欧米のシネコンをはじめとした映画興行は危機的な状況にありますが、まるでそれを予想していたかのように20世紀フォックスの買収で大人向けコンテンツを確保し、ストリーミングサービスHuluとDisney+の準備を進めていました。Disney+はサービス開始から加入者数が予想を上回る増加を見せ、現在の登録者数は8680万人と発表されています。

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